銀行の大リストラ、仮想通貨バブルの真因を明かす、 世界2位の経営思想家の予言書 – ダイヤモンド・オンライン



「世界で最も影響力のある経営思想家」トップ50人を隔年で選出するThinkers50

最新の2017年版で2位にランキングされたのが、ドン・タプスコットだ。

著書『ブロックチェーン・レボリューション』は、2016年の発売ながら、いまだに日本を含む世界中でベストセラーとなっている。

その理由は、仮想通貨の盛り上がりや、3メガバンクで合計3万人を超える大規模なリストラが発表されるなど、ブロックチェーンによって起こされる変革が次々と現実のものになっていることにある。

これからも『ブロックチェーン・レボリューション』に書かれたことは多数実現していくだろう。

いま最も読むべき本として、改めて同書の一部を公開する。

(注)この記事は2016年12月に配信された記事を再編集したものです。

「インターネット上では、誰もきみを犬だとは思わないさ」

 テクノロジー界の魔人(ジーニー)が、ふたたび魔法のランプから解き放たれたようだ。

 いつ誰が何のために召喚したのか、正確なことはわからない。だが魔人はすでにそこにいる。今回の任務は、経済のしくみをがらりと書き換え、人の営みを新たな形に再構築することだ。僕たちが望みさえすれば、すぐにでも願いは叶う。

 どういうことかって?

 説明しよう。

 インターネットは最初の40年で、Eメールやウェブ、ドットコム企業、ソーシャルメディア、モバイル、ビッグデータ、クラウド、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)などの便利な道具を運んできた。おかげで情報交換のコストが大幅に削減され、検索やコラボレーションがぐんとラクになった。新たなメディアやエンターテインメントの参入が容易になり、店舗や組織のあり方が変わり、革新的なネットベンチャーが誕生した。

 さらにセンサー技術によって、財布や衣服、自動車、建物、都市、それに生物までもがインターネットに接続されようとしている。やがてログインという概念が消滅し、僕たちの生活すべてがインターネット・テクノロジーに満たされる時代が遠からずやってくるはずだ。

 全体としてみれば、インターネットは僕たちに、多くのポジティブな変化を与えてくれたといえるだろう。

 ただし、インターネットにできることには、まだ限界がある。

 ザ・ニューヨーカー誌に掲載されたピーター・スタイナーの有名な風刺画をご存知だろうか。パソコンに向かう犬が、もう1匹の犬に対してこう教えてやる場面だ。

「インターネット上では、誰もきみを犬だとは思わないさ」

 この風刺画が掲載されたのは1993年のことだが、オンラインでのアイデンティティの問題はいまだに解決されていない。インターネット上で安全に取引するためには、銀行や政府などの第三者に問い合わせて相手が信用に足るかどうかを教えてもらわなくてはならない。あいだに立つ銀行や政府は、僕たちのデータを集め、プライバシーを侵害し、それを商売や安全保障のために利用している。

 しかも、このインターネット時代にあって、いまだに銀行口座すら持てない人が世界には25億人も存在している。誰もが平等につながりあう時代がやってくるはずだったのに、現実には金と力のある人がますます肥えていくばかりだ。残念ながら今のインターネットは、プライバシーの破壊を埋め合わせるほどの豊かさを生んでいるとは言いがたい。

 テクノロジーは良くも悪くも、すべてを大きく変えてきた。インターネットは人の権利をこれまでにない形で守り、同時に侵害する手段になった。オンラインのコミュニケーションとショッピングの爆発的な普及は生活を便利にしたが、ネット犯罪の危険性を急激に高めた。半導体の集積密度が18~24ヵ月で倍増するというムーアの法則は、その成果を利用して犯罪に手を染める「ムーアの無法者」たちの力をも倍増させた。スパムやなりすまし、フィッシング、盗聴、クラッキング、ネットいじめ、さらにはデータを人質にとって身代金を要求する「データナッパー(誘拐犯)」まで現れる始末だ。

インターネットに足りなかったのは「信頼のプロトコル」

 30年以上も前から、技術者たちはインターネットにおけるプライバシー、セキュリティ、インクルージョン(あらゆる立場の人が参加できる状態)の問題を解決しようと取り組んできた。暗号技術は着実に進化したけれど、それでも完璧に穴をふさぐことはできなかった。どうしても第三者が介入することになるからだ。

 たとえばクレジットカードを使ってオンライン決済するためには、あまりに多くの個人情報を危険にさらさなくてはならない。それにクレジットカードの手数料は高すぎて、小額決済の場合は割にあわない。

 デヴィッド・ショームという数学者は、1993年にイーキャッシュ(eCash)という電子決済システムを考案した。これは「匿名かつ安全な送金を可能にする技術的に完璧なプロダクト」で、「インターネットで小銭を送るのに最適なしくみ」だと言われていた。マイクロソフトをはじめとする企業もその可能性に期待し、イーキャッシュを自社製品に取り入れようとしたほどだ。ところが悲しいことに、当時の消費者はオンラインのプライバシーやセキュリティにまったく関心がなかった。結果として、ショームの立ち上げたデジキャッシュ社は1998年に倒産した。

 同じ頃、ショームの同僚だった暗号学者のニック・サボは「神のプロトコル(The God Protocol)」と題する短い論文を書いた(物理学者レオン・レーダーマン「神の素粒子(the God particle)」という言いまわしに掛けたものだ)。サボは論文のなかで、あらゆる取引の仲介者として神を置けば、そのプロトコル(つまり通信のしくみ)は完全無欠なものになると述べた。

「参加者は全員、神に入力値を送信する。神はそれを受けて、確実に正しい結果を送り返す。神はけっして秘密を漏らさないので、誰も取引相手について出力された結果以上の情報を知ることはできない」

 要するに彼が言いたいのは、インターネットで取引をするためには根拠のない信頼が不可欠であるということだ。インターネットのしくみ自体には十分なセキュリティが備わっていない。だから僕たちは、仲介者を神のごとく信頼するしかない。

 それから10年後の2008年、世界的な金融危機が起こった。同じタイミングで、サトシ・ナカモトを名乗る謎の人物(またはグループ)がある論文を発表した。そこに書かれていたのは、ビットコインと呼ばれる暗号通貨を使った、P2P(ピア・ツー・ピア)方式のまったく新しい電子通貨システムの概要である。

 暗号通貨が従来の通貨と違うところは、発行にも管理にも国が関与しないという点だ。一連のルールに従った分散型コンピューティングによって、信頼された第三者を介することなく、端末間でやりとりされるデータに嘘がないことを保証する。

 この一見ささいなアイデアが火種となり、コンピューターの世界を興奮と不安とイマジネーションで燃え立たせ、さらにはビジネス、政治、プライバシー、社会開発、メディア、ジャーナリズムなどのあらゆる分野に燃え広がった。

「ついに来た、という感じでしたね」そう語るのは、かつて世界初の一般向けウェブブラウザ「Mosaic」を開発したマーク・アンドリーセンだ。

「こいつは天才だ、ノーベル賞に値するぞ、と騒がれています。これこそインターネットがずっと求めつつ得られなかった分散型信頼ネットワークなんです」

 神ではなくただの人間が、冴えたプログラムによって、信頼を創りだす。このことはいったい何を意味するのだろう。いまやあらゆる分野の賢明な人たちが、それを理解しようと努めている。こんなものはかつて一度も存在しなかった。複数の当時者のあいだで直接取り交わされる、信頼された取引。それを認証するのは多数の人びとのコラボレーションであり、その動力源は大企業の儲けではなく、個々の小さな利益の集まりだ。

 神ほど全能ではないにせよ、このしくみはとんでもない力を秘めている。本書ではこれを「信頼のプロトコル」と呼びたい。

 信頼のプロトコルをベースとして、世界中に分散された帳簿がその数をどんどん増やしている。これが「ブロックチェーン」と呼ばれるものだ。ビットコインも一種のブロックチェーンであり、今のところ世界最大規模のチェーンとなっている。

 なんだかややこしい話のようだが、考え方はシンプルだ。要するにブロックチェーンを使えば、僕からあなたへと直接、安全に、銀行やカード会社を介さずに、お金を送ることができる。従来の「情報のインターネット」に対して、ブロックチェーンは「価値とお金のインターネット」だと言えるだろう。

 ブロックチェーンは、誰でも真実を知ることができるプラットフォームだ。しかもオープンソースで公開されているから、誰でも無料でソースコードをダウンロードし、それを使って新たなツールを開発することができる。

 今後ブロックチェーンを使ったアプリケーションが続々と登場し、まだ誰も思いつかないようなやり方で、世の中を根本から変えてしまうかもしれない。ブロックチェーンはそれだけのポテンシャルを秘めているのだ。

ブロックチェーンとはいったい何なのか

 銀行や政府も、ブロックチェーンを使って従来の情報管理のやり方を一新しようという取り組みを始めている。そうすればスピードが上がり、コストが削減でき、セキュリティが向上し、間違いが減り、集中管理をやめることで攻撃や障害にも強くなるからだ。そういう利点は、暗号通貨自体を使わなくても実現できる。

 ただしブロックチェーンの真骨頂は、やはりサトシ・ナカモトが考案したビットコイン・モデルだ。ブロックチェーンを使った画期的なサービスはすべて、ビットコインのしくみをベースにつくられている。

 ではビットコインとは、どんなしくみなのか。簡単に説明しよう。

 ビットコインはバーチャルな通貨だ。どこかにコインの実物があるわけではないし、ファイルとしてサーバーに保管されているのでもない。ブロックチェーンに記録された取引がすべてだ。ブロックチェーンとはあらゆる取引が記録された世界規模の帳簿のようなもので、大規模なP2Pネットワーク(サーバーを介さず、個々の参加者が対等な立場で直接やりとりするネットワーク)に支えられている。このネットワークの参加者たちが取引の正しさを検証し、承認する。

 ビットコインのデータはブロックという形で記録されている。ブロックとは、一定時間内におこなわれた取引データをひとつのかたまりにしたものだ。ブロックは約10分にひとつつくられ、過去のブロックの後ろにどんどん追加されていく(そうして鎖のようにつながるのでブロックチェーンという名がついた)。

 ブロックチェーンの主な特徴は、まず分散されていること。中心となるデータベースが存在しないので、乗っ取ろうとしても無駄だ。ブロックチェーンは世界中の参加者たちのコンピューターで動いているので、1台がだめになってもほかでカバーできる。

 もうひとつ大事な特徴はパブリックであること。ネットワーク上に置いてあるから、いつでも誰でも自由に見られるし、データの正しさを検証できる。どこかの機関が大事に管理しているわけではないということだ。

 さらにブロックチェーンには、暗号技術を利用した高度なセキュリティが備わっている。公開鍵と秘密鍵という2種類の鍵を利用して、自分の資産を確実に守ることが可能だ。ビットコインのブロックチェーンでは、取引データが個人情報と結びつかないので、大事な情報が盗まれたり流出したりする心配もない。

 ビットコインのネットワークではおよそ10分ごとに、まるで心臓の鼓動のように、情報が更新されて新たなブロックが誕生する。新たなブロックには以前の取引記録のダイジェストが含まれており、少しでも矛盾があれば正当なブロックとは認められない。いつの時点でどのような取引がおこなわれたかという記録が恒久的に残り、ひとつを変えようとすれば前の記録と整合性がとれなくなるので、データを改ざんすることは不可能に近い。みんなが見ている前で、いくつものブロックを書き換える必要があるからだ。

 ブロックチェーンにはどんな取引だって記録できる。たとえば個人の出生や結婚、不動産の権利、出身大学、金融口座、入院・通院、保険金請求、選挙の投票、食品の生産地など、そこに何らかの取引があればブロックチェーンに記録することが可能だ。

 この新たなプラットフォームが普及すれば、あらゆることをリアルタイムで電子的に照合できる。近い将来、身のまわりの製品がすべてインターネットに接続され、人間の指示がなくても自分で必要な電力を調達したり、大事なデータをシェアしたり、さらには健康管理から環境保護まで何でもやってくれるようになるだろう。そのためには取引の正確な記録が欠かせない。あらゆるもののインターネット(Internet of Everything)は、あらゆるものの記録(Ledger of Everything)の上に成り立つのだ。

 なぜ記録なんかにこだわるのかって?

 真実は僕たちを自由にするからだ。

 分散型の信頼システムは、あらゆる場面に応用できる。絵や音楽を売って生計を立てたいとき。ハンバーグの肉が本当はどこから来たか知りたいとき。海外で働いて稼いだ金を、高い手数料をとられずに祖国の家族に送金したいとき。地震の復興支援に来て、崩れた家を建て直すためにその土地の持ち主を知りたいとき。政治の不透明さにうんざりして真実を知りたいとき。ソーシャルメディア上のデータを他人に利用されたくないとき。

 こうして書いているあいだにも、イノベーターたちはそれを実現するために、ブロックチェーンを使ったアプリケーションを着々と開発している。そしてこれらはまだ、ほんの序の口だ。

世界中がいまブロックチェーンに注目している

 ブロックチェーン技術の影響力を思えば、優秀な人たちが続々とこの世界に惹きつけられているのもうなずける。

 ベンジャミン・ロースキーはニューヨーク金融サービス局の局長という地位を捨て、ブロックチェーン技術のアドバイザリーを専門とする会社を立ち上げた。彼は言う。

「今後5年か10年で、金融システムは今とは似ても似つかないものになっているかもしれません。僕はその変化に関わっていたいんです」

 JPモルガンで投資銀行部門のCFOやグローバル・コモディティーズ部長を歴任したブライス・マスターズも、ブロックチェーン技術にフォーカスしたスタートアップを立ち上げて業界を変革しようとしている。2015年10月のブルームバーグマーケッツ誌は「ブロックチェーンがすべてだ」という見出しで彼女の事業を特集した。エコノミスト誌も同じ時期に「信頼のマシン」という特集を組み、「信頼の長い鎖」であるブロックチェーンが「経済のしくみを変えてしまうかもしれない」とコメントしている。

 大手の金融機関も、こぞって超一流の技術者をかき集め、ブロックチェーンの調査に取り組んでいる。安全でスムーズでリアルタイムな取引というアイデアは銀行にとって大きな魅力だ。ただし、オープン化、分散化、新たな通貨というアイデアには顔をしかめる向きも多い。実際、金融業界ではブロックチェーンを「分散台帳技術」と呼び替え、クローズドなチェーンを構築する動きが進んでいる。ブロックチェーン技術の都合のいいところだけを取り入れ、限られた人しか利用できない形で運用しようというわけだ。

 投資家たちもブロックチェーンに目を光らせる。2014年と2015年だけで10億ドル以上の資金がブロックチェーンのスタートアップに流れ込み、その勢いは1年で倍増した。マーク・アンドリーセンはワシントン・ポスト紙のインタビューで次のように語っている。

「20年後にはここに座って、いまインターネットのことを語るような感じでブロックチェーンのことを語っているでしょうね」

 各国当局もブロックチェーンの調査を開始し、法規制が必要なのか、どのような制度がふさわしいのかを模索しているところだ。ロシアなどではビットコインの使用が厳しく規制されているが、通貨危機を経験したアルゼンチンのような国ではかなり積極的な動きも見られる。賢明な国々はすでに多額の資金をつぎ込んで、中央銀行制度や通貨のしくみ、さらには政府や民主主義のあり方まで変えてしまうかもしれないブロックチェーンという技術を理解しようと努めている。カナダ銀行のキャロライン・ウィルキンス上級副総裁は、各国中央銀行が通貨の電子化を真剣に検討すべき時期に入っていると語った。イングランド銀行のチーフエコノミストを務めるアンドリュー・ホールデンも、電子通貨の導入をイギリス政府に進言している。

 これだけブロックチェーンが盛り上がれば、当然ながら投機家や犯罪者も集まってくる。ビットコインと聞いて、まずマウントゴックスの破綻事件を思い浮かべた人も少なくないだろう。武器や麻薬を売買する闇サイト「シルクロード」の決済手段にビットコインが使われていたことも話題になった。ビットコイン市場はかなり荒っぽい値動きをしているし、残高が一握りの人に集中しているという問題もある。2013年の調査では、たった937人で世界のビットコインの半分を保有しているという結果が出た。この状況は変わりつつあるとはいえ、まだ十分ではない。

 どうすればポルノや詐欺のイメージを脱却して、本当の豊かさを生みだせるのか?

 まず言っておきたいのだが、僕たちが注目しているのはビットコインという通貨そのものではない。もっとずっと大きなものだ。ビットコインはいまだ投機的な資産にすぎないけれど、それを支える技術プラットフォームには計り知れないパワーと可能性が眠っている。

 もちろん、ビットコインや暗号通貨が取るに足りないと言っているのではない。暗号通貨の存在は革命の必須要素だ。ブロックチェーンの本質は何よりも、価値の(とくにお金の)交換にあるのだから。



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