若者層の3割が中国での就職を希望——改革頓挫と中国の威嚇で習近平下回る台湾総統の好感度 – BUSINESS INSIDER JAPAN



台湾の蔡英文総統の支持率下落に歯止めがかからない。2017年末の台湾での世論調査では、蔡氏の好感度が46.9%と、習近平中国国家主席の51.1%を下回ってしまった。決してブラックユーモアではない。中華世界で初めて民主化を達成し、日本など海外では評価の高い「民主台湾」に何が起きているのか。内政と対中政策から人気低迷の背景を探る。

蔡英文台湾総統

台湾の蔡政権は、内政改革でも行き詰まり、当選の原動力となったミレニアル層の支持も失いつつある。

REUTERS/Tyrone Siu

まず1月末に相次いで発表された世論調査結果をみよう。

元民進党幹部が理事長を務め、どちらかといえば民進党系の学者が多い世論研究組織「台湾民意基金会」が1月28日に発表した調査で、蔡政権の施政に「賛成」は31・7%で「不賛成」は47%。政権が誕生した直後の2016年5月には7割近くあった支持率はその後、4割台で推移した。最低は2017年8月の29.8%だったが、今回はそれに近い結果だ。

このほか2つの世論調査でも、蔡総統への信任度は30.2%(不信任54.5%)と36.3%(不信任47.4%)とほぼ同様の結果だった。

台湾民意基金会によると、支持低迷の理由の第一は、中途半端な内政改革が民進党の支持基盤だった青年層や労働者の離反を招いたことにある。蔡氏は政権発足以来、対中関係では「現状維持」を掲げる一方、内政改革を優先し清新さをアピールしようとした。その目玉は①労働基本法改正②公務員の年金改革③同性婚を認める婚姻平等法案だった。

崩れたミレニアルの民進党支持

このうち労基法改正案は2016年12月に立法院(国会に相当)を通過、成立した。しかし改正案は、12日間の連続出勤を合法化し、シフト勤務の間隔を11時間から8時間に短縮する内容。これに看護師や運転手など労働者が「過労死させるつもりか」と猛反発、法律修正を求め、大規模デモやハンガーストを展開している。

年金改革も退役軍人や退職した教職員の強い反対を招いた。成立すればアジアで初となる「婚姻平等法」は宙に浮いてしまった。民進党支持者や台湾独立支持者が多いキリスト教「長老派教会」が反対したためだ。李登輝元総統も同教会に属するクリスチャンだ。

習近平国家主席

賃金などの伸び悩みから、中国での就職を希望する台湾の若者たちが増加している。

REUTERS/Jason Lee

台湾では国民党と民進党による二大政党の政権交代が繰り返され、両党間の対立が政治の基本軸になってきた。しかし、今回は中途半端な改革が、台湾の各階層と世代間の矛盾と分断を広げる結果を生みだし、支持下落につながる。特に20~24歳の青年層の5割強が蔡政権の施策に反対し、賛成の3割を上回った意味は小さくない。「民進党はミレニアル世代の支持が高い」という定評は崩れた。

一方、蔡政権に武力統一をちらつかせ、圧力を強める中国との関係はどうか。

民意基金会の調査では、蔡政権の両岸政策(中台関係に関する政策)に「満足」の回答は31%で、「不満」はその倍の約6割だった。「信任の危機」をもたらしているもう一つの要因が両岸政策なのである。

対中政策の何が「不満」なのか細かくみよう。

両岸政策への反応で最も多いのが「ちょうどよい」の30.3%だった。しかし「軟弱過ぎる」(29.8%)と「強硬過ぎる」(23.3%)を併せればほぼ三分され、両岸政策でも台湾世論は溝があることが分かる。政党支持率別にみると、民進党支持者は「ちょうどよい」が約5割で、「軟弱」が35%。国民党支持者の47%は「強硬」と受け止めた。

「天然独」が中国での就職希望

中国の空母遼寧

中国は台湾近海に空母を航行させるなど、武力での圧力も強めてきた。

REUTERS/Stringer

習近平政権は蔡政権が誕生してから、戦闘機や空母「遼寧」を含めた軍艦を台湾海峡の中間線付近やバシー海峡を航行させ、軍事的圧力を強めてきた。2018年に入ると、台湾海峡中間線付近を南北に走る民間航空路「M503」の運用を一方的に開始するなど強硬姿勢が目立つ。

興味深いのは「M503」運用に対する世論の反応。中国の航空各社は、春節(旧正月)に向け台湾に増便を申し入れたが、蔡政権はこれを拒否。この「拒否」に対し44.3%が反対し、賛成(39.8%)を上回る結果が出たのだ。大陸には100万人の台湾ビジネスマンが滞在している。台湾に帰省する直行便が少なければ、困るのは台湾ビジネスマン。世論は「政治判断」より「利便性」を重視したことがうかがえる。

台湾では、「産まれたときから台湾は独立国家」と考えるミレニアル世代を「天然独」と呼ぶ。彼らは馬英九前政権の対中融和政策に反対し、民進党の政権復帰の原動力になったとされてきた。しかし別の世論調査によると、20~39歳の青年層の約3割が中国大陸での就職を希望しているという。

その理由は「賃金など待遇が台湾より高く将来性がある」。先の世論調査では、蔡政権下の経済状況について「悪化した」との回答が41.5%と最も多い。失業率は3%台に下降しているものの、賃金水準は頭打ち。このため賃金、生産性ともに台湾を上回る中国大陸に魅力を感じる「天然独」が増えたということなのだろう。増便拒否への反対もそうだが、実利優先の思考が滲む。

民衆心理に変化

習近平氏の好感度が蔡氏を上回った結果について、台湾紙「中国時報」 はこう分析する。

「両岸の実力と影響力の差が拡大する中、台湾民衆の心理に、イデオロギーに基づいた二元論に変化が出ている。民主台湾は独裁大陸より優れているというイデオロギーでは、統治の成果の差を説明できない。政治スローガンでは台湾社会の多くの難題を解決できない」

「中国寄り」とされる同紙だが、それを差し引いてもうなずける分析ではないか。統一はしたくないが、独立も不可能。「現状維持」は将来の方向ではない。そんな閉塞感が漂う中で、「本省人vs外省人」という出身別の対立が希薄化する半面、内政改革の失敗は、社会各層や世代間に新しい矛盾を際立たせた、ということなのだろう。

中国の圧力は、1996年の台湾海峡危機や、2000年の総統選挙当時の、文章で攻撃し武力威嚇する「文攻武嚇」を思わせる。当時の威嚇は逆効果だった。2000年総統選挙では、党綱領で台湾独立をうたう民進党政権を誕生させた。しかし今回の民意をみると、中国の経済力と国際的影響力が強まる中で、台湾への強硬姿勢は民衆の心理変化も手伝い奏功している面がある。

とすれば、中国は今後も台湾への圧力を強めるはずだ。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。



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